塑性

2012年9月 8日 (土)

COMP_INCRとCOMP_ELASの違い(弾塑性編)

前回の検証事例「非線形解析の設定と、出力される応力・ひずみの種類について(弾塑性編)」では、検証の実施に「COMP_INCR」のみを用い、「COMP_ELAS」は省略しました。

その理由ですが、私が参考にした公式サイトの解説ドキュメント

公式サイトの「Support」-「Code_Aster trainings」のページにある「Non linear capabilities

では、「COMP_ELAS」は弾性挙動をするという説明があったためです。つまり、弾塑性解析にCOMP_ELASを用いた場合、負荷過程と除荷過程で同じS-S曲線上を通ってしまい、永久ひずみが残らなくなります。

この辺りの説明は、もちろん公式ドキュメントにも記載されていますが、読解がなかなか難しいです。
上述した「Code_Aster trainings」のシリーズのような、分かりやすい解説資料が出てきたのは有り難いです。

さて、今回はその「COMP_INCR」と「COMP_ELAS」の、弾塑性解析における挙動の違いを確認しました。

ソフトウェアはこれまで同様、DEXCS2011-Salome-A3(64)(SALOME6.3 + Code_Aster STA10.5)の利用です。

解析モデルですが、2種類の挙動を一度に並べて比較するため、前回の1要素のみのモデルをコピーして2要素にしました。

下図のように、SalomeのMeshにて、「Modification」-「Translation」で、Y方向に2mmの距離で要素をコピーしました。

Nl0501


このとき、「Generate Groups」にチェックを入れると、元のメッシュに設定されていた各グループも一緒にコピーされました。ただし、コピーされたグループ名は長い名前になるので、手作業で短い名前に直しています(“fixX2”など)。

このように2つの要素とグループが出来ました。

Nl0502


向かって左側の要素を「COMP_INCR」用、右側を「COMP_ELAS」用とし、これらを要素ごとに分けて設定するため、Volumeのグループ(incrとelas)も追加しました。

次にcommファイルのEficasによる編集です。

材料は、前回の「公称応力 - 工学ひずみ」の定義による弾塑性材料です。

Nl0503


境界条件は、各要素の各方向3面を面内拘束します。
荷重は、X方向に2N[N]を、time=0->0.5で与えて、.time=0.5->1.0でゼロに戻します。

Nl0504


そして、STAT_NON_LINEにて、左側の要素に「COMP_INCR」、右側の要素に「COMP_ELAS」を設定しました。

Nl0505

さて、計算結果です。

まず荷重が最大となった時点です(コンターは、荷重方向の応力です)。

Nl0506


荷重が増える方向では、両者は同じです。

次に、荷重をゼロに戻した状態です。

Nl0507


COMP_INCRでは永久ひずみが残り、COMP_ELASでは初期形状に戻ってしまうことが分かります。

動画です。

荷重と変位の関係をグラフにしたものです。

Nl0508


COMP_ELASは、一本の線上を往復しています。

このように、弾塑性解析における「COMP_INCR」と「COMP_ELAS」の挙動の違いを確認することが出来ました。

今回のメッシュファイル(mmed)とcommファイルは下記です。

nl05.zip

2012年9月 2日 (日)

非線形解析の設定と、出力される応力・ひずみの種類について(弾塑性編)

前回、「非線形解析の設定と、出力される応力・ひずみの種類について」を線形弾性材料(ELAS)と超弾性材料(ELAS_HYPER)にて検証しましたが、今回は同じ検証を弾塑性材料で実施しました。

検証の趣旨や方法、理論式等については前回と同じなので、そちらをご参照ください。
ソフトウェアも同じく、DEXCS2011-Salome-A3(64)(SALOME6.3 + Code_Aster STA10.5)の利用です。

材料物性は下記の設定としました。
(「公称応力-工学ひずみ」での定義)

ヤング率:1000 [MPa]
ポアソン比: 0.499
初期降伏応力:1 [MPa] (ひずみ:0.001)
ひずみ硬化率:10 [MPa]

理論式が非圧縮を前提としているため、弾性域についても、ほぼ非圧縮(ポアソン比0.499)としています)。
上記の物性は「公称応力-工学ひずみ」による定義ですが、これを「コーシー応力(真応力)-対数ひずみ(真ひずみ)」に換算すると、下表の通りになります。

Nl0401

また、両曲線をグラフにすると下図のようになります。

Nl0402

これを前回同様に、検証用解析モデルの形状である、初期断面積=1[mm^2]、初期長さ1[mm]の条件を理論式に入れて、横軸を変位(0~1mm)にしてプロットしたものが下図です。

Nl0403

次に、Code_Asterによる計算の設定です。

塑性域における応力ーひずみの関係は、DEFI_FONCTIONにて定義します。
データの最初の点を降伏点として、「応力ー全ひずみ」の形式でデータを入れていくのですが、この「応力ー全ひずみ」の関係を、どの応力とひずみの組み合わせで入力するのか、選択肢が生じます。

基本的には共役な応力とひずみの関係である、「公称応力 - 工学ひずみ」、「コーシー応力 - 対数ひずみ」、「第2ピオラキルヒホッフ応力 - グリーンひずみ」の3通りが考えられますが、第2ピオラキルヒホッフ応力はあまり一般的でないと思いますので、今回は前者2つ(工学ひずみと対数ひずみ)だけで検証することにしました。

Eficasによる設定画面は下記です。

公称応力-工学ひずみ

Nl0404


コーシー応力-対数ひずみ

Nl0405


それから、非線形解析の設定(STAT_NON_LINE)ですが、今回は「COMP_ELAS」は試さず、「COMP_INCR」のみにしました。
この両者の違いについては、Code_Asterの公式サイトの「Support」-「Code_Aster trainings」に分かりやすい解説があります(下記リンク)。

Non linear capabilities

「COMP_ELAS」は弾性挙動(線形または非線形)となり、負荷過程と除荷過程で同じS-S線上をたどるので、永久ひずみが生じません(これについては、後日、別に検証記事を書きます)。

「RELATION」は「VMIS_ISOT_TRAC」です。Von-Misesの降伏条件による、等方硬化則の設定となります。

Nl0406

「DEFORMATION」については、下記の5種としました。

・PETIT
・PETIT_REAC
・GROT_GDEP
・SIMO_MIEHE
・GDEF_LOG

結局、入力データ2種類と、DEFORMATION5種類の10ケースを試すことになりました。

結果ですが、まず計算自体が出来たかできたかどうかについては下表の通りです。

Nl0407

“S-S”は入力データとして用いた「応力-ひずみ曲線」、“Eng”は「公称応力-工学ひずみ」、“Log”は「コーシー応力-対数ひずみ」の意味です。
GROT_GDEPにおいて、変位が0.7mmを超えると計算が止まってしまうことを除けば、全ての組み合わせで計算することが出来ました。

そして、これも前回同様、理論による応力・ひずみと、Code_Asterの計算結果を重ねてプロットしました。

ただし今回は、ひずみの比較は載せていません。
ひずみの出力は、どのような組み合わせにおいても

・EPSI_NOEU:工学ひずみ
・EPSG_NOEU:グリーンひずみ

となったためです。全て下図のようになりました。

Nl0408

したがって、結果は応力の比較のみです。図が大きいので前回同様にPDF化しています。
また、変位0~1mmのグラフでは、降伏点付近が見にくいので、2ページ目に変位0~0.05mmの拡大グラフも載せています。

nl04-1.pdf

●入力データに「公称応力-工学ひずみ」を用いた場合。

PETITを除き、変位(=工学ひずみ)が微小領域(およそ4~5%程度)を超えると、SIEF_NOEUはどの応力にも一致せず、正しい評価が出来ません。反力も同様です。
PETITでは大ひずみ領域でも公称応力が得られるのですが、変形がおかしくなっています。

Nl0409


これはX方向への変形1mm(X方向伸張比=2)の状態ですが、Y方向、Z方向の長さがそれぞれ半分になっています。これでは「非圧縮」の条件を満たしていません。
2*0.5*0.5=0.5で、元の体積=1から半分に減っています。

したがって、入力データに「公称応力-工学ひずみ」を用いた場合、工学ひずみ4~5%程度の微小変形領域までの利用に留めるべきと思われます。

●入力データに「コーシー応力-対数ひずみ」を用いた場合

GDEF_LOGでは、SIEF_NOEUがコーシー応力に一致し、反力も正確です。
PETIT_REACとSIMO_MIEHEでは、大ひずみ域で若干のズレがあるものの、SIEF_NOEUがコーシー応力にほぼ一致し、反力もほぼ正確です。

PETITは微小ひずみ領域のみコーシー応力に一致しています。
GROT_GDEPは微小ひずみ領域でも、ズレが大きくて使えません。GROT_GDEPを使うのであれば、「公称応力ー工学ひずみ」の入力のほうが良いです。

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応力については、以上のような結果となりました。
しかし、応力以外にも、変形や回転が正確なのかどうかが気になるところです。
少し長くなりますが、今回はついでに変形についてもチェックしてみました。

上で少し触れましたが、PETITの場合は非圧縮の条件から外れてしまう結果となりました。
非圧縮の単軸変形の場合、引っ張り方向の伸張比をλ1、他の2方向の伸張比をそれぞれλ2、λ3とすると、下記の関係式が成り立ちます。

λ1×λ2×λ3 = 1

ここで、λ2=λ3 なので、

λ2 = λ3 = 1 / SQRT(λ1)

となります(SQRTは平方根)。

この理論値と、各計算結果を重ねてプロットしました。
横軸はX方向(引っ張り方向)の変位、縦軸はZ方向の伸張比です。


Nl0410


入力データに関わらず、PETITおよびGROT_GDEP以外は理論値と重なっています。つまり正確な変形をしています。

ここまでの結果をまとめると、下表の通りになります。


Nl0411_2



これを見ると、上のほうで紹介した公式サイトのドキュメント「Non linear capabilities」で説明されている内容とほぼ整合するようです(○△×の判定は、私の主観によるものです)。

ただし、今回は大回転については未検証です。
荷重を与えながら剛体回転させる、または変形によって応力を生じさせてから剛体回転させるという設定は、ちょっとややこしそうです。そこで公式サイトの例題を探ってみたのですが、

Documentation version 11 v6.08.106.pdf (SSND106)

が、それに該当するようです。commファイルの内容も複雑なので全ては理解していないのですが、SIMO_MIEHEとGDEF_LOG(およびGDEF_HYPO_ELAS)は、大回転も可能のようです。

一方、PETIT_REACは、上述の「Non linear capabilities」や、「R5.03.24 (4.2.2項)」等を見ると、大回転には向いていないようです。

結局、弾塑性解析で「大ひずみ」・「大変形」・「大回転」の全てに対応するには、下記のようにするのが良さそうです。

・永久ひずみを考慮する場合、「COMP_INCR」を用いる。
・DEFORMATIONは「SIMO_MIEHE」か「GDEF_LOG」。
・入力データは「コーシー応力 - 対数ひずみ」。
・計算結果の応力(SIEF_xxxx)は「コーシー応力」として評価する。

なお、今回のメッシュファイルとcommファイルは下記です。
commファイルは、入力データがEngとLogの2種類です(DEFORMATIONはGDEF_LOGにしています)。

nl04.zip