ゴムバンドの摩擦力による動力伝達(後編)
前回(前編)の続きで、2本のローラー間にゴムのバンドを掛けて、その摩擦力でローラーの回転と動力を伝達させるという事例です。
(前編の記事掲載以後、様々な改良を行っていますが、今回はとりあえず改良前のモデルの後編の説明です)
利用ソフトウェアは、Salome-Meca2012.2(SALOME 6.5 + Code_Astr 11.2.0)で、OSはdebian6です。
前編では、ローラーに所定の軸荷重を与えてゴムバンドを張り(time=0~1)、その位置で従動ローラの中心を固定し、軸荷重および安定化の為の拘束を除去したところまで(time=1~2)でした。
後編では、time=2~4で、駆動ローラーを反時計回りに2回転させます。つまり、time=1あたり1回転になります。また、回転はじめから1/4回転までの間で、従動ローラーの内側突起部の側面(trq)に負荷トルクとしての荷重を与えていき、1/4回転からは一定のトルク値を保持します。
以下、後編のcommファイル(rband01b.comm)の説明です。
■計算の継続
前回のデータを読み込み、継続して計算をする場合には「POURSUITE」を用います。
Eficasで新規にcommファイルを作成する際に「POURSUITE」を追加すると、前回のcommファイルを指定するようにメッセージが表示され、ファイルを選択するBOXが開きますので、そこで前回の「rband01a.comm」を選択します。
また、「POURSUITE」から始まるcommファイルを開いたときも同様で、前回のcommファイルを指定します。
この作業によって、前回のcommファイルで定義済みの変数や関数、パラメータなどがそのまま使えるようになります。
■駆動ローラーの回転変位設定(drrot)
time=2~4で、駆動ローラー上の2ヶ所の点(drp1, drp2)に変位を与え、駆動ローラーを反時計回りに回転させる設定です。time=1あたり1回転とします。
2ヶ所の点のx,yの変位を、INST(time)の関数として、それぞれ関数(FORMULE)として定義し、「AFFE_CHAR_MECA」で境界条件「drrot」として設定しました。
このように変形体を回転させる方法についての詳細は「回転体とゴム板の接触」をご参照ください(参照先の制御節点はX軸上に並んでいますが、今回はY軸上に並んでいますので、式の内容は異なります)。
2ヶ所の点は駆動プーリの内径ライン上に位置するので、振幅は内径の半径である「44mm」になります。
■負荷トルクの設定(trq)
従動ローラーの内径側に出ている突起の側面(trq面)に面圧荷重を与え、トルクを発生させます(突起の詳細など、モデルについては前編をご覧下さい)。
従動ローラー中心からtrq面中央までの距離が43[mm]、圧力値が1.16[N/mm^2]、trq面の面積が2[mm^2]なので、トルクは、
43 x 1.16 x 2 = 100 [N・mm] となります。
厳密に言えば、trq面への荷重は半径方向に分布しているので、上記のような計算式ではなく積分計算をする必要がありますが、ここはtrq面が微小であるとして、単純な計算で済ませています。
■接触の設定
接触の設定「DEFI_CONTACT」は既に前編のcommファイル(rband01a.comm)で設定済みなので、それと同じ設定で良ければ、このcommファイルで再設定する必要はありません。しかし今回の試行では、前編の設定のままでは後編の回転部分においてどうしても計算が収束しませんでした。そのため、前編(cont)と異なる名前(cont2)にて再設定しました。
前編と違うところは、「COEF_FROT」の値を「10」にした所です。前編はデフォルト値の「100」でしたので、その1/10になっています。「COEF_FROT」は公式ドキュメント「U4.44.11」でもあまり詳しい記述が無いのですが、おそらく、接触する両面間に相対変位が生じたときに、摩擦力が変位と共に立ち上がるときの傾きのようなものではないでしょうか(これについては自信がありません)。もしそうだとすると、この値が小さくなると、相対変位に対する摩擦力の増加が緩やかになり、収束しやすくなる反面、現実と比べて十分な摩擦力が得られない可能性もあります。
■タイムステップの設定(time=2~4)
pas3aは、回転開始のtime=2から、1/4回転してトルクが所定値に達するtime=2.25までを180分割と細かくし、それからトルクが一定値を保持するtime=4までは315分割と粗くしています。
output3は結果の出力間隔ですが、これは2回転の間を均等に360分割しています。つまり、駆動ローラーが2°回転する毎に結果が出力されます。
pas3bは時間ステップ幅の自動調整です。これは前編とあまり変わりませんが、ステップ幅を増やす判断に用いるNewton法の収束回数基準値を、9回と多めにしました。
■非線形解析の設定(time=2~4)
境界条件は、今回定義した「drrot(駆動ローラー回転変位)」と「trq(従動ローラートルク荷重)」を追加しています。従動ローラーセンターのピン固定は継続です。
ここで、「trq」については追従荷重(TYPE_CHARGE='SUIV')を指定し、ローラーが回転しても、常にtrqは突起側面に垂直になるようにしています。この設定で、常に一定のトルクが作用するようにしています。下の動画をご参照ください。
動画を見られない方は、下の静止画をご覧ください。
また、追従荷重の詳細については、「追従荷重」をご参照ください。
それから、収束条件を残差の相対値「REGI_GLOB_RELA」で、値を「1e-4」にしました。
デフォルトは「1e-6」なのですが、それでは収束しなかったため、緩めの判定値にしました。
■結果の計算と出力
これは特に変わった事はしていません。
以上の設定にて、astkから計算を実行しました。
baseについてですが、前編でデータを「rband01a.base」フォルダに書き出していました。
したがって後編ではそこから読み出しても良いのですが、それでは後編の計算が終わったときに上書きされてしまいます。
後編の計算を何度も試行錯誤したかったので、「rband01b.base」フォルダを別に作り、試行のたびに「rband01a.base」の内容を上書きコピーしてから計算をスタートさせるという方法にしました。
以下は結果の図です(Mises応力)。ローラーの応力は不要なので非表示にしています。
●time=2
引っ張っただけなので、上下対称の変形・応力状態です。
●time=2.25
駆動ローラーが反時計回りに1/4回転した状態で、トルクが所定値に達しています。
両ローラー間でゴムバンドが張られている所(スパン)では、トルクによって、上側が強く張られていて応力も大きい事が分かります。
●time=3
駆動ローラーが反時計回りに1回転した状態です。
しかし従動ローラーは1回転に若干足りていない事が分かります。
これは、ローラーとゴムバンドの「すべり」が原因と思われます。
●time=4
駆動ローラーが反時計回りに1回転した状態です。
従動ローラーは更に遅れています。トルクが一定状態でも「すべり」があるようです。
それに、応力の分布状態に「ムラ」があります。これについては改善が必要です。
改めて結果の動画を載せます。
このように、一応この種の解析が可能である事が分かりました。
しかし、まだ下記のような問題が残っており、実用にはそれらの解決が必要です。
- 応力や変形が若干いびつになっている。これはバネの影響が残っているか、メッシュが粗すぎるなどの原因が考えられる。
- 計算が不安定で、タイプステップが制限値まで細かく分割されても収束せず、JOBが止まる事が多い。
- 計算時間が長く掛かる。これは、ローラーを剛体面扱いできず、変形体として解いている事が大きく影響していると思われる。剛体サーフェスの導入か、せめて剛体結合時にも大回転が出来るようにしてほしい。
- 接触・摩擦計算については更なる高速化と、安定性が必要。
- これらの問題については、開発元の対応がない限りどうしようもない事もありますが、自分で改善できそうなところは、出来るだけ詰めていきたいと思います。
今回のデータは下記です(前編と同じです)。
メッシュファイル: rband01.mmed
commファイル(前編): rband01a.comm
commファイル(後編): rband01b.comm
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Very nice study !
Congratulations !
投稿: Code_Aster team | 2012年12月18日 (火) 06時19分
Thank you for your comment.
Now, I'm going to improve the accuracy of this study.
投稿: aki | 2012年12月18日 (火) 23時14分