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2012年8月12日 (日)

ゴム(超弾性)の物性値を同定する方法

Code_Asterでゴム(超弾性)を扱う場合の材料物性として、公式ドキュメントU4.43.01」では、「DEFI_MATERIAU」にて「ELAS_HYPER」を指定すると、Signorini形式の材料が使えると書かれています。この超弾性材料の設定に関する理論は「R5.03.19」で解説されていますが、ひずみエネルギー密度関数の定数として、C10, C01, C20 の3つを使う形式のようです。このうち、C20を省くと「Mooney-Rivlin」形式、C01とC20の両方を省くと「Neo-Hooke」形式になります。
「Ogden」形式は、ドキュメントには記載がないのでサポートされていないのかもしれません。

いずれの形式を使うにせよ、実験データからこれらの定数を同定する必要があります。商用ソフトでは、実験データから材料定数を同定する機能(カーブフィッティング)が用意されています(プリプロセッサに組み込まれていることが多いようです)。しかし、SalomeやCode_Asterにはこの機能は無いようです。公式フォーラムでは「MACR_RECAL」(U4.73.02)で出来るというような情報もありますが、なんだか難しそうです。

そこで今回は、多くの人が持っているであろう「EXCEL」で、超弾性の物性を同定してみます。
なお、ゴム物性をきちんと把握するためには、単軸の引っ張りだけではなく、1軸拘束2軸引っ張り、2軸均等引っ張りなどの2軸引っ張り試験データも必要ですが、ここでは単軸引っ張りだけで簡便に扱います。

まずは予備知識として、ひずみエネルギー密度関数(W)や、伸張比(λ)、ひずみの不変量(I1, I2)などに関する基礎理論を理解することが必要ですが、これについては、ここでは書ききれません。
様々な書籍や、WEBでも検索すれば多くの情報が得られると思います。
私がよく参考にしているのは下記の書籍です。

「設計のための高分子の力学」 著:深堀美英、技報堂出版(2000年) (ISBN 4-7655-0389-5)

ここで、今回の同定に用いる式は下記の通りです(詳細は上記の書籍などをご参照ください)。

(1)ひずみエネルギー密度関数 W

Hype041
ゴム物性を定義する式です。変形によるエネルギーは、ひずみの不変量I1,I2の関数になるという考えです。ひずみの不変量は、材料のひずみの度合いを表す指標のようなものです。これはI1,I2,I3の3種類ありますが、上式ではI1とI2の二つを使っています。

この式は自分の目的に応じて好きなものを使って良いのですが、今回用いる式は、Code_Asterで用いるC10,C01,C20の各項に加え、汎用性を考えてC11の項も追加しました。

(2)ひずみの不変量I1, I2を、伸張比λから計算する。

Hype042_2
単軸引っ張りの場合において、伸張比λから、ひずみの不変量I1とI2を計算する式です。これは、変形モード(単軸引っ張り、2軸均等引っ張りなど)によって異なってきます。
伸張比λは、工学ひずみεに1を足したものです(λ=ε+1)。

(3)ひずみエネルギー密度関数Wを、I1,I2で偏微分した式

Hype043

Hype044

これは、(1)の式をI1, I2で偏微分すると得られます。

(4)公称応力σを求める式

Hype045
この式と、(2),(3)式によって、公称応力σを、伸張比λから計算できます。工学ひずみをεとすると、λ=ε+1なので、公称応力と工学ひずみの関係が得られます。

これらの式をエクセルのシートにまとめたものが下記のファイルです。

hype04-mooney4.xls

画面のスナップショットです。

Hype046


まず、実験データ(工学ひずみと公称応力)を左側に入れます。
各行とも上述の式に従い、伸張比、I1,I2, dW/dI1, dW/dI2, 計算した公称応力が表示されます。
(行が足りない場合は数式を含めてコピーして増やし、余る場合は削除してください)。

このとき、左上の定数(C10, C01, C11, C20)を適当に打ちかえると、計算された公称応力が様々に変化することが分かります。しかし、計算結果を実験に合わせるのは、手動での打ち変えで調整するやり方では難しいです。そこで、エクセルの「ソルバー」機能を使います。

ソルバー機能はエクセルのデフォルトのインストールでは組み込まれていないかもしれませんので、無い場合は組み込みます(「エクセル ソルバー アドイン」で検索してください)。私の使っているエクセル2010では、「データ」タブの「分析」にボタンが追加されました。

ソルバーによる同定の方針ですが、公称応力の「実験値」と「計算値」の「差の2乗」を最小化します。エクセルシート上で、各行の残差の2乗を計算し、それらの合計をまとめます(K3セル)。
ソルバーの目的セルをその(K3)にして、目標値を「最小値」にします。
変数セル(変化させるセル)は、C10(C1), C01(C2), C20(C4)を複数選択します。Code_AsterではC11は使わないので、C3セルの値はゼロにしておき、変数セルには含めません

C10, C01, C20の初期値を適当に入れ、「解決」を押すと、適切な数値が入ります。
ここで、「制約の無い変数を非負数にする」にチェックを入れると、定数は全て正の値になります。定数に負の値が含まれると、カーブフィットの精度は上がりますが、変な極値がでて挙動が不安定になる場合があるので、注意が必要です。

同定が完了しました。

Hype047

このようにして、単軸試験におけるゴム物性を同定できました。
これを発展させると、2軸試験を含めた複数カーブの同時フィットも出来ます。
ただし、エクセルのソルバーは指数関数は苦手のようで、Ogdenのカーブフィットは上手くいきませんでした。

なお、今回のエクセルファイルですが、説明用に手早く作成したものなので、数式の間違いなどがあるかもしれません。
業務には使用しないよう、お願いいたします。

2012/8/13 追記

*同定値のCode_Asterによる検証はこちら

*今回の同定対象データは、手違いにより、ひずみ0.5~1.0の間が0.1刻みになっていました(他の区間は0.05刻み)。計算内容や同定結果には影響はありません。

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